« ウイークポイント | トップページ | 福島在住者を応援する »

2012年6月30日 (土)

リアリスト

昨日6月29日に行われた、大飯原発再稼働に反対する総理官邸前デモは、主催者発表15~20万人(警察発表2万人弱)の規模に上ったようだ。しかし、私は行かなかった。実は、ちょっと「見物」にでもと思わないではなかったが。

この期に及んで、態度を決めかねているわけではない。自分の中での答えは既に出ている。私は「原発即時全廃」とは叫べない。しかし、今大飯原発を再稼働するのは、やはり拙速であり、ストレステスト(二次評価=事故発生時の施設の健全性に対する評価)が十分に行われていない段階で動かすべきではないと思っている。

ベントの際に放射性物質の放出を抑制するフィルターの設置など、二次評価を完成させるためには3年ほどかかる。それらを待っていられないという声が、産業界を中心に強く存在することは事実だろう。しかし、二次評価項目のうち、現在どの程度が実施済みなのかは示されていないように見える(すでに発表されているなら、お教え願いたいが)。

福島第一原発の事故において、決定的に弱かったのは(つまり、過酷事故を招いた原因は)、地震や津波の規模を「想定外」としてしまったこと以上に、事故が起きてしまった場合にどれほど小規模化できるか(過酷事故を防げるか)が、ほとんど検討されずにきたことではないかと考えられる(たしか、民間事故調でも指摘されていたはず)。だから、事故が起こるかどうかより、万一起きてしまった場合にどう沈静化させられるかという二次評価こそが、この上なく重要なはずだ。

大飯の二次評価が、現状では設置不可能な数点を除き、どの程度済んでいるのかを明らかにすべきだろうと思う。一点でも不安材料が残されていれば、再稼働を認めないという意見が大勢なのは間違いあるまいが、それでも現状よりはずっとマシなはずだ。なし崩しが一番いけない。新たな規制組織が成立していないことを問題視する意見もあるが、現状においては二次評価の進捗状況を問うことの方が先決であるように思われる。

もう一点、「脱原発依存」を諦めていないというなら、やはりその具体像が示されてしかるべきだ。政府は、8月を目処に、2030年段階の原発依存度を決定するとしているようだが、具体策を大幅に欠いたままだ。

http://www.enecho.meti.go.jp/info/committee/kihonmondai/27th/27-1-2.pdf

上記資料は、6月19日に発表された「エネルギーミックスの選択肢の原案について」である。ここの15~20頁に、委員から出た原子力についての考え方が列挙されている。

16~18頁に示された「原子力発電の中長期的な位置付けを巡る主な意見」「a) 早期にゼロを目指すべきとの意見」が、比較的多くの国民の意見に近いと見てほぼ間違いあるまい。しかし、「エネルギーの選択は、いずれにせよ厳しいものにならざるを得ない。一長一短のあるエネルギー源をいかに組み合わせ、バランスを確保するかが、エネルギーミックスの選択における重要な視点である」(22頁)は嘘ではなく、事実であろう。

31~34頁に、このたび示された選択肢が列挙されている。「選択肢(1) 意思を持って原子力発電比率ゼロをできるだけ早期に実現し、再生可能エネルギーを基軸とした電源構成とする」こそが理想であり、多くの国民の意見を代弁している。だが、どうも政府の「現実的」な方向性としては、「選択肢(2) 意思を持って、再生可能エネルギーの利用拡大を最大限進め、原子力依存度を低減させる。併せて、原子力発電の安全強化等を全力で推進する。情勢の変化に柔軟に対応するため、2030年以降の電源構成は、その成果を見極めた上で、本格的な議論を経て決定する」に落ち着かせたいのが(このくどい選択肢名称からも)うかがえよう。

「どうですか皆さん、このへんを落とし所にしていただけませんか」という(「残り18年では、頑張っても(2)までしか難しいように思うんです」という)雰囲気を感じないだろうか。政権交代直後の民主党政権が、国際社会に「格好良く?」約束してしまったCO2削減目標や、燃料調達にかかる資金的問題、国際情勢における不確実性に対する懸念も、確かにある。

私は(原子力工学はもとより、政治や経済の専門家ですらない素人だが)、今は上記「選択肢(1)」を実現させる方法(具体策)を、実地に、可能な限り詳細に検討すべき時ではないかと考えている。最悪でも、「選択肢(2)」を一担は受け入れた上で、2040年頃までに「原発比率ゼロ」を実現するために頭を使うべきではないかと思っている。なんと迂遠な話だと感じるむきもあろうが、少なくとも政府には(そしておそらく、世界中のリアリストにも)「選択肢(1)」よりもラディカルな、「即時全廃」といったシナリオはなく、それができないという説明にも合理性を認められるように思う。

そして、何よりも重要なことは、政府や電力会社に再び「絶対安全」と言わせる(嘘をつかせる)状況を作ってはならない。原発は、一歩間違えばとてつもない損害、被害をもたらすし、あらゆる技術に「絶対安全」などということはない。だから、不断に安全性の向上をはかりつづけねばならない。

どう考えても、あと10数年は、この恐ろしい原発と付き合っていかねばならなくなっている。だから、不安材料があれば検証し、改善するという努力を徹底してもらわなくてはならない。「どうせ先がない技術」だからといって、いいかげんに扱うわけにはいかない。

「先がない」嫌われ者の技術を日々改良し、より良いものにしていく努力は、徒労感との戦いでもあろう。新進の技術者は、より「安全」度と発電効率の高い原子炉の開発を目指したくなるに違いない。気持ちは分からないでもないが、少なくとも発電用商業原子炉はフェードアウトしていただくしかない。

以上をふまえた上で、私はなおも反原発デモをアリだと思っている。デモは「即時全廃」の実現にはつながるまいが、いささかの困難をおして「選択肢(1)」を選び、その内容を具体化し、実現していくための布石にはなる。また、大飯原発単独の問題でいうならば、安全性をこれ以上蔑ろにさせないための、強力なプレッシャーとなる。ただし、私は現状でそれ以上を強く主張することができずにいる。実際官邸前に出向くモチベーションを欠き、そのことに負い目を感じてもいる。

一方で、最近のデモでは、「野田やめろ」コールが響くという。それ自体はいい。実際に支持率急降下中の野田首相だが、しかし彼を「のだめ」と呼び、党内分裂をまねいた無能さを嘲笑する見方があることについて、私はいささかの危惧を覚える。彼の主張や、最近の発言については同意できない点の方が多いが、実のところ、ここ10数年の総理経験者の中では屈指の力量の持ち主ではないかと思う。それが良いとか悪いとか言っているのではない。かなり手強い相手だということを心しておくべきだと思うのだ。

実際は何も言っていないに等しく、詭弁にも等しいあの「再稼働宣言」を見ながら、私は不覚にも震えてしまった。様々な専門知識のほどは別として、彼は原発に関しても政局に関しても、反対派を含めた意見を冷静に見比べた上で、タイミングをよく見計らって冷徹に決断を下しているようだ。また、対抗者の心がよく読めているようにも見える。

野田は決して暗愚な宰相ではない。今この時に、彼が総理大臣の地位にいることが、後から振り返って良かったのかどうか分からない。むしろ彼のようなリアリストではない人物が首相であれば(たとえば、前首相や前々首相のようなロマンチストだったら)、山積する諸問題の処理は今以上に蔑ろにされた可能性もあるが、大飯原発の拙速な再起動も、先日可決された消費増税も(このいずれにも、私は賛成できない)、実現しなかったような気がするのである(この考えは甘いだろうか)。

なるべくしてなった現在に、パラレルワールドを想定しても詮無いことだが、もし菅と野田の順番が逆だったら? 未曾有の危機や混乱へ対応する際に、理念先行型のロマンチストは邪魔でしかない。しかし出口の見えない混迷中にあっては、トップがリアリストなのが最良とはかぎらない。当然、様々な問題の裾野に目配りできることが、最低限の資質として必要なのは言うまでもないが。

« ウイークポイント | トップページ | 福島在住者を応援する »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/573661/55084769

この記事へのトラックバック一覧です: リアリスト:

« ウイークポイント | トップページ | 福島在住者を応援する »