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2011年5月29日 - 2011年6月4日の1件の記事

2011年5月29日 (日)

趣味の話(中国茶)

関東の日本茶から、基準値を上回るセシウムが検出された。お茶好きとしてはなんとも悲しい話だ。子供の頃から、濃い煎茶をがぶ飲みしていた。家族が少なかったから、茶葉くらいは贅沢に使えたのだ。それで、今も訪問先で出されたお茶が香りのない薄いものだったりすると、ついつい厳しめの評価をしてしまう(だからって、文句を言うことはないけれど)。

日本茶については、値段はそう重要でない。銘柄にこだららなくても、茶葉の量と湯の温度が適当であれば、それなりに美味しくいただけるものだ。あとは茶葉の保存方法等をきちんとすれば、100グラム500円程度の煎茶だって、香りは立つ。

美味しくない最大の原因は、まず茶葉が少なすぎること。大きな急須にパラパラと茶葉を入れても、白湯プラスαにしかならない。適量の茶葉に70~80度くらいのお湯を注いで、多少長めに抽出する。もちろん、玉露などの場合はその限りでないし、玄米茶やほうじ茶だったら熱湯でもいい。芽茶、茎茶、深蒸し茶、釜炒り茶など、製法によって調整は必要で、こだわればきりがないのだけれど、最低限の美味しい淹れ方を知っておくのは必要だと思う。

どの程度の味で満足できるかは、その家族なり組織なりの文化レベルと関係があると思う。無理して値段の高い茶葉を揃える必要はなくて、集団のうちにほんの数人でも、美味いお茶を飲みたいと思う人がいさえすれば、全体のこだわりが違ってくる。こだわりの有無っていうのは、仕事だとか物の考え方だとかに出てきてしまうものだと思う。それで、ペットボトル緑茶が熱くなっただけのようなお茶が出てくると、訪問先に対する評価がちょっと怪しくなったりする。逆に言うと、雑然とした埃っぽい事務室に通されたとしても、出された一杯のお茶が美味しかったりすると、質実剛健な好印象を受けたりもするのだ。

ところで、ここ数年、家ではもっぱら中国茶ばかり飲んでいる。中国茶って言ってもいろいろで、種類もグレードも千差万別。俗に六大分類などと言って、緑茶、青茶、黒茶、紅茶、黄茶、白茶があるし、「茶外茶」といわれるもの(苦丁茶や菊花茶)などもある。

春の緑茶(龍井茶とか)は確かに美味しいけれど、いかんせん保存がきかず、すぐに味が落ちてしまう(封を開けないで冷凍庫に入れておけばある程度は保つ)。中国で一番広く飲まれているのは緑茶だが、あまり質の高いものを常備している家は少ない。北京などでは、グレードの低い(香りのたたない)緑茶に茉莉花を添加したジャスミン茶がよく飲まれている。これも悪くはないが、どうにも日本で好きこのんで飲むものじゃないように思う。

そもそも、中国では水道の水をそのまま飲むことはできないから、ミネラルウォーターやウォーターサーバーが普及するようになるまでは、もっぱら湧かして飲んでいた。湯冷ましをそのまま飲んでもいいのだけれど、独特の臭いが強い。そこで、どんなものでもいいから、茶葉は不可欠であった。美味いかどうかは二の次で、日常的に飲む嫌みのない飲料を確保するための材料とでも言えばいいだろうか。

安い中国茶葉はいくらでもあるのだけれど、それなりの美味さを追求するとかなり高価なものになる。中国茶は安くて大して美味くないものだと思っている人がいたら、一度グレードの高い中国茶を飲んでみるべきだろう。まさに目からウロコだ。その上で、懐具合と相談しつつ、このくらいまでは出してもいいという値段が決まってくる。

ちなみに、私の場合は、50グラム2500円くらい。青茶(ウーロン茶類)なら日本茶と違って出涸らしになりにくく、5煎目くらいまでは出るから、実はそうバカ高いわけではない。なお、この値段は日本での価格なので、現地より若干高めではある。ただし、同等レベルの茶葉は、製茶工場で直買いしても、500グラム20000円くらいする(ものすごく大量に買い付けるのでもなければ、茶葉は原則値引きしてくれない)。

さて、以下に青茶の淹れ方を書いてみる。客をもてなすための「茶芸」ではないから、端折るところは端折っている。中国茶のネットショップ等にも詳しい説明があるだろうから、気になった人は、そちらも検索してみてほしい。

青茶と一口に言っても、茶葉の形状や水色(液体の色)で、大きく二種類に分けられる。一つは茶葉が細長く濃い茶色で、水色が紅茶やほうじ茶に近いもので、福建省の武夷岩茶(大紅袍、肉桂など)、広東省の鳳凰単叢、広く栽培されている水仙などがこれに相当する。日本のペットボトル飲料などは水仙の低級品が使用されているので、ウーロン茶と言えばこちらを想像する方が多いだろう。

01 武夷岩茶(肉桂)

一方、台湾のウーロン茶(文山包種、凍頂烏龍、梨山茶、高山茶など)や、福建省安渓産の鉄観音などは、茶葉が丸まった緑色(新茶でない場合は薄い茶色)、水色は日本の煎茶に近く、フルーティーな香りとあっさりとした口当たりが特徴だ。

02 台湾梨山茶

青茶を淹れる際には、素焼きの急須(茶壺=さこ)を用いるのが一般的。蓋付きの茶碗(蓋碗=がいわん)を茶壺の代わりに用いる地方もあるが、これは慣れが必要。一方、茶壺を用いた淹れ方は、要点さえ覚えれば難しくない。

茶壺は、100mlから150ml程度の小振りなものを用いる。よく300mlを超える大きな茶壺も見かけるが、青茶を淹れるには適当ではない(多くは中国緑茶、プーアル茶などに用いるか、部屋の飾りになる)。

1.茶壺は、深めの皿(お湯受け)の上に置く。皿の上に養壺座という器具を乗せて、その上に茶壺を置く場合もある。養壺座は、茶渋がしみこんで茶壺の外観が損なわれるのを防ぐものなので、単にお茶を楽しむだけなら必要ない。

03

2.茶葉を茶壺に入れる。ポイントは、茶葉の種類によって入れる量が異なること。武夷岩茶などの茶葉が大きいものは、茶壺の半分程度までたっぷり入れる必要がある。一方、茶葉の丸まった台湾ウーロンや鉄観音などは、茶壺の底部が隠れる程度の量でかまわない(丸まった茶葉は、お湯を含むと大きく膨らむ)。

3.茶壺に熱湯を注ぐ(お湯は沸騰したものを用いる。T-faLなどの卓上湯沸かし器があると便利)。この際、茶壺から熱湯を溢れさせる。なお、茶壺に注いだ熱湯をすぐに別の器に移し(これは飲まない)、茶碗などを温めるのが茶芸の作法だが、一人で楽しむ上では必要ない。

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4.茶壺に蓋をして、その上から熱湯をかける(正式な場合は、別の器に移しておいた茶湯をかける)。その後、20秒から1分程度蒸らす。蒸らす時間は好みで調整しよう。

05

5.お茶を器に注ぐ。なお、数人で飲む場合には、まず小さなデキャンタ状の器(茶海)に注いでから、茶杯(小さな湯飲み茶碗、ぐい飲みなどで代用可)に注ぎ分けるが、一人で楽しむ場合は、直接湯飲み茶碗に注いでもいい。茶壺自体が小さいので、ちょうど通常の湯飲み茶碗1杯分になるはず。

06

6.前述の通り、中国茶は日本茶と違って、通常4~5回くらいの抽出に耐える。2回目以降は、蒸らす時間を少し長めにするといい。

中国茶用の茶壺(素焼きのもの)は、長年の使用によって茶の成分を吸収し、外見を変化させる。一部分のみに茶渋をつけてしまうとみっともないので、使用後はよく水洗いしよう。洗剤の使用は絶対にタブー。臭いを吸収し、お茶にケミカルな雑味が混じるようになる。新品を買って初回の使用前には、製造過程でついたホコリをとり、茶の成分を吸収しやすくするため、少量の茶葉とともに30分ほど鍋で煮た後、数時間冷まし、きれいに水洗いして乾燥するという作業が必要だ。

10年ほど前に、台湾で茶壺ブームがおこり、日本でも中国茶ブームがあった。その影響で、茶壺の産地として長い伝統を誇った宜興市は、茶壺バブルとでもいうべき状況になり、値段が高騰した。コレクターを欺く手段が数多く考え出され、陶芸家の職称(国や市の政府が認定)詐称が横行したようだ。結果、製品の質も低下し、宜興の国営工場は事実上の解体に追い込まれたが、実力のある作家が個人工房を創設し、製品の質を再度向上させる努力を続けたため、巨匠の工房で学んだ若手陶芸家が実力をつけつつある。

今ではブームも去り、茶壺の価格も安定している模様。かつてのように、作れば売れるといった状況ではないため、安価なものでも丁寧な仕事が多くなった。ただし、中国の一般店舗(土産物屋など)で販売される茶壺の多くは大量生産品なので、その限りではない。そもそも、こだわる人でなければ、作家手作りの茶壺など買おうとはしないだろう。別に大量生産品でもお茶は飲めるから、気にしない人はそれでも何ら問題はない。

中国茶壺を手に入れるなら、工房と直接取引のあるネットショップなどを通じて購入するのが無難だが、ネットショップも玉石混淆なので、一度買ってみて、信用がおけるお店かどうかを判断する必要がある。その点は、茶葉についても同様で、中国茶ブームの時に比べて数は減ったものの、粗悪品を販売する店も存在する。

ネットショップを中心に、信用のおける店を挙げておく。なお、同じ銘柄の茶でもショップによって価格が異なるが、これは仕入れの量にもよるだろうし、また同じ銘柄で同じ等級の茶葉にも実際は大きな差がある(製茶工場によって技術に違いがあり、焙煎の具合などの好みも異なる)。また、希少性によって高額になっているケースもあり、必ずしも高いから美味いとは限らない。要は、懐具合と相談しながらいろいろ試してみて、気に入ったのを見つけることだ。

老地方茶坊:http://www.tea-jp.com/chinatea/
*茶葉の種類は多くないが、品質は申し分なし。茶壺の購入はこちらがお勧め。

茶茶:http://www.chachanet.com/
*茶葉の種類多し。品質は老地方にはかなわないが、信頼はおける店。

天英茶業:http://www.tanytea.jp/
*まだ種類は少なく、値段の高いものが多いが、品質は確か。

岩茶坊:http://www.gancha-bou.co.jp/main.html
*店舗移転前に一度行ったことがあるが、品質の高さに驚いた。ネット販売の有無は不明。

茶語(Tea Boutique):http://tea-boutique.jp/
*百貨店内に中国茶カフェを展開する「茶語」のネットショップ(一般向け)。

冒頭で触れたセシウムの問題も含め、精神的な豊かさを脅かす要素が目白押しだが、危機感は保持しつつ、影響されすぎないことも大切だと思う。その意味で、どんなことでもいいけれど、自分の生活に何かしらこだわりを作っておくことの意義は大きい。興味のない人にとっては「どうでもいい」ことであっても、本人の生活の最後の一線を割らないための目印になる。

私の場合、美味しいお茶を飲む時間を大切にしていられるうちは、まだ大丈夫だということ。自分の趣味に対して、一定程度の意識を向け続けることができるか否かによって、社会と個人の「正常」度を判断することができる。個々人のこだわりが失われ、趣味が否定されるようになった時点で、破滅へのカウントダウンは開始されよう。

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